文部科学相の本音 本末転倒な「 志 」

Student, Teacher2015.3.15

大学入学試験が大きく変わる。これまでの知識偏重を改め、知識の活用力や主体的に学習に取り組む姿勢を評価する入試への転換を図るため、文部科学省は小論文や面接などを取り入れた新しい試験「大学入学希望者学力評価テスト」を導入する方針だ。現在の小6が高3になる2020年度からの実施を目指す。

その狙いについて、大学生向けの実践型ビジネススクール「高師塾」で学ぶ4人の学生記者が、下村博文(しもむら・はくぶん)・文部科学相を直撃インタビューしました。

受験生に「志」あるか 総合判断

| 入って満足 − 伸びない

 —— 多くの受験生が大学で何をやりたいかではなく、周りが受験するから、親や周りの人が良い大学に行けというから、頑張って良い大学を受験するという風潮があります。こうした受験に対する意識を改善していくには、どのような教育を進めていくことが最善だとお考えですか。

 下村博文氏「そうなってしまうのは、本人の責任だと思います。これからドラスチックに大学入学試験を変えようとしていますが、入試を変えたところで、学生本人が変わらなければ同じことです。

 大学に入る目的が漠然としていて、入学後に後悔することになるのも、本人の問題です。それは制度が悪いとか国が悪いとかではないと思います。日本の大学とアメリカの大学の大きな違いについて、ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進さんがこうおっしゃっていました。日本で一番難しい東大医学部は、100年たってもノーベル賞受賞者は0人だった。しかし、東大医学部ほど難しくないシカゴ大学は、大学の学部出身者だけで39人もいる。どこに違いがあるか。

 それはアドミッションポリシー、要するに入学試験が違うのだと。日本の大学は18歳の暗記・記憶能力の一発勝負の入試で判断しているけれども、シカゴ大学は、その学生がその後どれだけ伸びるかとか、どれだけ社会に貢献する人材が自分の大学から巣立っていくか、そういう基準で合否を決めている。利根川さんはそうおっしゃっていました。何によってその後伸びるかどうかが決まるかというと、『志』です。

 つまり、やりたいことがあれば、意欲的に頑張るわけです。日本で一番難しいからそこにチャレンジして入りたいという、それだけしか動機がなければ、入って満足してしまうので、その後伸びないんですよ。

 逆に言えば、『志』があれば、大学を出ていなくても、世界で活躍する人材は出てくる。はっきり言って、大学を出ているかどうかは、関係なくなる時代になると思います」

|「東大にAO」ではない

 —— 現在のセンター試験が廃止になり、面接や小論文を取り入れた新しい試験制度を導入するということですが、東大受験にも、AO入試のような要素を含んだ試験が導入されるということでしょうか

 下村博文氏「入学試験そのものが変わるので、東大受験にAO入試が導入されるということではないのです。AO入試については、学力を問わないことによって、今の大学の4割で高校の学習レベルに達しておらず、補習授業を行わなければならない状況にあります。こんなの大学ではありません。そういう意味でAO入試には問題があります。

 それから、もちろん基礎基本は大事ですが、単なる暗記・記憶型の入学試験ではなく、もっと多面的な入学試験を導入する必要があります。医学部を目指すような学生だったら、ある程度の学力を備えているということを基本に、面接をして本当に医者になりたいという志を持っているのか、医者になって何をしたいかというところを見て総合判断します。一方で、その大学に入って、トータル的な人間力が伸びるのか、その大学が4年間で志を持った学生に対し貢献ができているかということが、大学の評価にもつながっていくと思う。そういう入学試験に変えていきたいと考えています」

学ぶ意欲 点火する場こそ大学

|自分でつかむ意識

 —— 下村大臣が望む大学で学ぶべき項目とは何でしょうか

 下村博文氏「そういうことを聞くことが甘えなわけです。何のためにいま自分は生きていて、何のために大学へ行くのかという志を持ってほしい。人が与えてくれるものでも、大学が与えてくれるものでもなく、自分でつかむんだという意識が大切です。

 NHKの大河ドラマ『花燃ゆ』が放送されていますが、吉田松陰は黒船に密航を企てて捕まって、いまで言う重犯罪者用の刑務所に入れられ、二度と世の中に戻ってこられないという場面がありました。終身刑に近い、そういう刑務所に入れられながらも、その中で互いに教えあって、それがヒントになって『松下村塾』を作ることになった。

 つまり絶望の中でも吉田松陰に感化され、生きる意欲や学ぶ意欲を持つことができた。それが教育だと思います。

 まずは個人が学ぶ意欲を持つことで、そこが学びの場となります。いまの日本の大学に欠けているのはそういうことだと思います。何としても東大に入って学びたいと思うのは立派なことだと思います。

 それで行ってみたら、自分には合わなかったということもあるかもしれないけれど、行きたいと思わなきゃそもそも入れないんですよ。大学の役目は、入学してきた学生の学ぶ意欲に火が付くような場を提供することです」

|小中高の方向性も変わる

 —— 次に起業家教育について質問させていただきたいのですが、高師塾は、「能動性」「創造性」「人間性」を兼ね備えた若者の育成を目指しています。日本ではなかなか起業家が現れないといわれるなか、起業家教育をどう進めていこうとお考えですか

 下村博文氏「起業家にならなくても、能動性、創造性、人間性は重要なことだと思います。21世紀に必要なのは、まさにその能力ですよね。アメリカのある学者が、現在の小学1年生が大学を卒業するとき、つまり15~20年後には現在の職業の65%がなくなっていると言っています。そうすると、今までの暗記・記憶だけではついていけない時代になります。

 そのときに求められるのが、どんなところでもさまざまな課題を自ら解決していこうという主体的な能力を持つという意味での能動性です。

2つ目は、クリエーティブつまり創造性。上司から指示されたことしかできない社員だったら、その人は放っておいても、消える65%の職業の中に入ってしまう。同じ企業でも、仕事の仕方を変えていかなければ生き残っていけません。だから創造性が今まで以上に求められるのです。

3つ目は、人間としての感性、優しさや思いやり。それはどんなにコンピューターやロボットが進歩しても持てないものです。

この3つの能力を、学校教育でも伸ばしていくことが求められている。大学入試で、そういうことを問うことによって、大学に受かるための勉強をさせている高校も変わってくる。ペーパーテストではわからないから面接をして、トータル的に判断した上で、この学生は伸びそうだな、3つの能力を育てられそうだなと判断する。そうすれば、高校や中学、小学校の教育もその方向に合わせてくるようになります」

 —— 最後に、若者に一言お願いします

 下村博文氏「『志』を持てということです。誰かに頼るとか、ただ批判するのではなく、自分がやるっていう意思が大切。文句を言うくらいなら自分でやるっていう人が伸びていく。そのための『志』です。頑張ってください」

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